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『日本の科学者』2015年10月号をめぐる問題に関する私の意見
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 日本科学者会議の機関誌『日本の科学者』の2015年10月号に掲載された増田善信さんの論文に対し、野口邦和・清水修二・児玉一八さんが反論しようとしたところ、編集委員会によって掲載を断られてしまったそうです。 事件の経緯は、左巻健男さんのウェブサイトで紹介されています。

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 まず一般論から述べたいと思いますが、全く仮定や推測を用いないで科学的推論をすることは事実上不可能です。科学研究といえども、ある程度は仮定や推測に頼らざるをえないのですが、仮定や推測にはバイアスが入り込むことが避けられません。 重要なことは、バイアスがあるかどうかより(バイアスはあるに決まっているので)、科学的推論においてどこまで仮定と推測に頼ることが許されるかという問題と、科学者自身が自分のバイアスを自覚できているのかどうかという問題です。 今回の件に関して言えば、増田さんの側も、野口さん・清水さん・児玉さんの側も、仮定と推測に頼って言い過ぎているように感じられます。 増田さんの論文では、福島県での甲状腺がんの増加の原因が原発事故の影響だと証明できているとはとても思えません。 しかし清水さん・野口さん・児玉さんのように、原発事故の影響を完全否定するのも(現時点では)行きすぎと思います。少なくとも証明はできていません。 現在のデータでは、福島での甲状腺がんの増加が原発事故の影響なのか、それともそうでないのか、断定的なことはまだ言えないでしょう。

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 例えば、(一応)福島原発事故の健康影響がないとされている西日本と、福島のデータを同じ基準で比較してみて、福島の方が甲状腺がんの発生が少なければ、原発事故の影響は福島でも西日本でも大差ないと判断できます。 比較というのは科学の基本的な手法です。ただし、チェルノブイリと福島を形式的に比較しても、いろいろな前提条件が違いすぎるので決定的な結論を導くことはできません。 なお、ここで「西日本では福島原発事故の健康影響がない」と考えたのは、ある程度の事実の裏付けはあるとはいえ結局のところ一つの仮定・推測にすぎません。

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 科学的推論が、仮定や推測に頼らざるを得ないということをしっかり自覚して、行きすぎたことは言わない。もうひとつは、断定的な結論はまだ言えないことを認識したうえで、議論を深めるということが大切なのではないでしょうか。 科学者会議が単なる学会ではなく批判的な科学者の集団である以上、放射線の危険性を強調する方向のバイアスを持つことは妥当だと思いますが、議論を封じてしまったらバイアスがどんどん大きくなって科学の範囲から逸脱してしまうでしょう。 科学者会議自体が当事者ではなかったとしても、科学者会議に近いところでそのような前例もあります。

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 このような理由で、野口さん・清水さん・児玉さんの反論を『日本の科学者』に掲載するべきであると考えます。もちろん、これは野口さん・清水さん・児玉さんの主張を私が支持するということではありません。

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